東京地方裁判所 平成4年(ワ)6579号 判決 1993年12月07日
原告
住田和子
ほか一名
被告
矢﨑武雄
ほか一名
主文
一 被告らは、原告住田和子に対し、連帯して金二三四万八〇八〇及びうち金二〇九万八〇八〇円に対する平成元年六月一〇日から、うち金二五万円に対する平成四年五月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告住田和子のその余の請求及び原告有限会社まるみやの請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用のうち、原告住田和子について生じたものは、これを五分し、その二を同原告の、その余を被告らの各負担とし、原告有限会社まるみやについて生じたものは、同原告の負担とする。
四 この判決は、原告住田和子の勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告らは、各自、原告住田和子(以下「原告住田」という。)に対し、金三八六万一五八八円及びこれに対する平成元年六月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告らは、各自、原告有限会社まるみや(以下「原告会社」という。)に対し、金二五万八九三〇円及びこれに対する平成四年五月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告らは、各自、原告らに対し、原告らの連帯債権として、金四〇万円及びこれに対する平成四年五月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言
第二事案の概要
一 本件は、信号待ちのため停車していた乗用車の運転者及び所有者が、タクシーに追突されたことから、それぞれその人損及び物損について賠償を求めた事案である。
二 争いのない事実
1 本件交通事故の発生
事故の日時 平成元年六月九日午後一一時三〇分ころ
事故の場所 神奈川県横浜市西区桜木町四の二三先交差点(国道一六号)
加害者 被告矢﨑武雄(加害車両運転)
加害車両 タクシー専用小型乗用車(品川五五き四八二〇号)
被害者 原告住田(被害車両運転)及び原告会社(被害車両である小型乗用車横浜五四ひ七二四五号を所有)
事故の態様 加害車両が、信号待ちのため停車していた被害車両の後方より追突した。
事故の結果 原告住田は、本件事故により頭部打撲及び頸椎捻挫等の傷害を受け、原告会社は、被害車両を破損された。
2 責任原因
被告矢﨑武雄は、加害車両を運転中、前方不注視等のため被害車両に追突したから民法七〇九条に基づき、また、被告日の丸自動車株式会社(以下「被告会社」という。)は、加害車両を保有していたから自賠法三条に基づき、それぞれ本件事故について損害賠償責任を負う。
3 損害の填補
(1) 原告住田分
被告会社が付した自賠責保険により一二〇万円を受領した。
(2) 原告会社分
被告会社は、原告会社に対し、平成元年七月二五日、被害車両の修理代及び評価損として四四万〇三二五円を支払つた。
三 本件の争点
本件の争点は、原告らの損害額である。
1 原告住田は、本件事故により、次の損害を受けたと主張する。
(1) 治療費 六〇万八六四七円
(2) 通院交通費 一〇万九七六五円
(3) 休業損害 三二〇万〇〇〇〇円
(4) 慰謝料 一一三万〇〇〇〇円
(5) 通信費 一万三一七六円
2 原告会社は、本件事故により被害車両の廃車を余儀なくされたとして、被害車両と同型の普通自動車の買換えに要した自賠責保険、税金、諸経費の合計金二五万八九三〇円の損害を受けたと主張する。
これに対し、被告らは、被告会社と原告会社とが、平成元年七月二五日、前示の原告会社に対する損害賠償金等の支払いにより車両破損による損害を終了させることを合意したと主張する。
3 右以外に、原告らは、弁護士費用分四〇万円を原告らの連帯債権として主張する。
第三争点に対する判断
一 原告住田の損害について
1 治療費及び文書費 四八万五五九五円
(一) 甲三の1ないし4、7、8、四の1ないし4、五の4、6、7ないし11、13ないし16、19ないし26、28、29、31、32、34ないし36、38ないし42、44ないし50、52ないし56、60、62、65、67、69、71、75、77ないし80、六の1ないし11、七の1ないし105、一四ないし一七、二三、原告住田本人によれば、原告住田は、本件事故の結果、次のとおり病院に通院したことが認められる。
(1) 済生会神奈川県病院脳神経外科
平成元年六月一〇日、同月一七日及び平成二年一月六日の合計三日間、頭痛等のため通院
治療費及び文書費 二万四五〇五円(うち文書費は一万五八九〇円)
(2) 大口リハビリテーシヨン病院
平成元年六月二六日から同年七月六日まで頸椎捻挫治療のため通院(日数一〇日)
治療費及び文書費 三万〇九六五円(うち文書費は三五〇〇円)
(3) 大口東総合病院整形外科
同年七月二〇日から平成二年三月二六日まで通院(日数四九日)
治療費及び文書費 一一万五一二五円(うち文書費一万三五〇〇円)
(4) 小宮療院
平成元年六月一五日から同年一一月二〇日まで同院に鍼のため通院(日数一〇五日)
治療費 三一万五〇〇〇円
(二) 被告は、右のうち小宮療院分については、鍼が対症療法であるから本件事故による損害とは認めがたいと主張するが、甲三の1、3、7によれば、前記大口東総合病院整形外科の担当医は、原告が鍼療法をすることを同意していたこと、前記各病院では原告住田に妊娠の可能性があり、レントゲン撮影をしなかつたことが認められ、レントゲン撮影により結果を観察しつつ投薬や理学療法を行うことが困難であつた本件にあつては、鍼療法による費用も本件事故による損害と認めるのが相当である。
なお、甲七の106ないし113によれば、原告は平成二年四月二七日以降も数回鍼療法を行つていることが認められるが、前記の平成元年一一月二〇日の通院から数カ月を経てからのことであり、かつ、散発的に受けているに過ぎないことから、この分の鍼療法に要した費用は、本件事故による損害とは認められない。
(三) ところで、原告住田は、平成元年六月二六日から大口総合病院で妊娠の経過観察を受けていたところ、同年七月七日に出血があり、同月八日から同月一九日まで切迫流産のため入院した(日数一二日)と主張し、これに要した治療費六万九八〇八円も本件事故と因果関係があるものとして請求する。そして、甲一の1ないし4、三の6、三八に前示争いのない事実を総合すると、原告住田は、被害車両を運転して前示の事故の場所で信号待ちのため停車していたところ、加害車両を運転していた被告矢﨑武雄が、前方案内板に気がとられ、被害車両が停車していることに気づかず、そのまま時速約六〇キロメートルの速度で同車の真後ろに追突したこと、同原告は、右追突時に座席のヘツド部分に後頭部を激しく当てたこと、治療に当たつた担当医は、腟炎等の治療費を除外した上で、右入院に関する部分を含めて、自賠責保険診療報酬明細書を作成したことが認められ、右事故の態様や担当医の診療報酬明細書の記載からすれば、事故と切迫流産との間に因果関係があると見れないわけではない。しかし、右担当医は本件事故との間におよそ因果関係があるとは認められない腟炎等の治療費を除外したものの、切迫流産については本件事故との間の因果関係を明確には否定し得ないことから、これに要した費用を右診療報酬明細書中に含ましめたとも考えることができ(同医師の診断書(甲三の5)にも、因果関係に関する記載はない。)、また、同原告は本件事故の発生後約一カ月を経過してから出血しているのであつて、前示の事故の態様を斟酌しても、本件事故と発生時期のずれの長さからすると、因果関係に関する医師の的確な証明書等のない本件にあつては、同原告の切迫流産が本件事故により生じたものと認めるのは困難である。
2 通院交通費 九万〇五九七円
甲九の1ないし41、47、48によれば、原告住田は、右各病院への通院のため、九万〇五九七円を費やしたことが認められる。
3 休業損害 一六〇万八七一二円
甲二の1、2、原告住田及び原告会社代表者の各供述に前示各事実を総合すれば、原告住田は、本件事故当時原告会社の従業員であつたところ、右各病院に合計一二五日通院したこともあつて(一日のうちに前記大口東総合病院と小宮療院の双方に行つたこともあるが、これを一日として計算した。)、平成元年六月分から平成二年一月二三日までの原告会社からの給与の支払いを停止されたことが認められる。もつとも、原告住田は、妊娠しており、同月二四日に出産したものであつて(原告住田本人)、出産準備のため、遅くとも平成元年の末日までには休業することが予定されていたものと推認されるので、本件事故と因果関係のある休業期間は二〇〇日(日曜、祝祭日等の休業日を含む。)と認めるべきである。
ところで、原告住田は、本件事故当時の同原告の給与は月額四〇万円であると主張し、甲二の1、2、5、一一の1、三二の4、原告住田及び原告会社代表者の各供述はこれに沿う。このうち、甲二の5は、平成元年二月二〇日開催された原告会社の臨時社員総会議事録と題する書面であるところ、同書面には、平成元年四月から原告住田の給与をそれまでの月額一〇万〇五〇〇円から月額四〇万円に昇給させる旨の議決がされた旨の記載がある。しかし、原告会社ではその代表者の給与が月額二〇万円であることや(原告会社代表者本人)、一挙に四倍の昇給を決議する合理的な理由がないこと(原告らは、原告住田が宅地建物取引主任であり、その当時の不動産取引の状況からすれば低い給料では他に引き抜かれることを恐れたと主張するが、原告会社代表者本人によれば、原告住田が右資格を有しているものの、同原告は原告会社代表者の実子であり、月給一八万円の福沢保育センターから原告会社に転職したことが認められるのであつて、このように家族関係も考慮すると右主張を肯認することができない。)、甲二の5以外の前示各書証はいずれも本件事故の後に作成されたものであること等を考慮すると、前示各証拠によつては原告住田の本件事故当時の給与は月額四〇万円であるとの右主張を直ちに認め難い。さりとて、原告住田が宅地建物取引主任であることや、原告会社がいわゆる個人会社であり、その当時原告住田が原告会社代表者宅に家賃や食事代を支払うことなく同居していたこと(原告会社代表者本人)も考慮すると、月額一〇万〇五〇〇円を基礎に休業損害を算定するのは相当ではない。したがつて、平成元年度の賃金センサス(女子労働者・学歴計・三四歳)によることとする。
293万5900円÷365×200=160万8,712円
4 慰謝料 一一〇万円
原告住田は、本件事故による頸椎捻挫等のために長期の病院通いを余儀なくされ、また、同原告は、本件事故前に妊娠しており、右通院中に本件事故との因果関係は認められないものの切迫流産により入院したのであつて、本件事故による傷害に起因する心労、苦痛は、懐胎のない場合に比して数段勝ることは容易に推認されるところである。これらの点に加え、本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、傷害慰謝料は一一〇万円と認めるのが相当である。
5 通信費 一万三一七六円
甲一〇の1ないし26によれば、原告住田は、本件事故による損害賠償に関する被告との交渉のため通信費として一万三一七六円を費やしたことが認められる。
6 1から5までの合計金額は、三二九万八〇八〇円となる。
なお、前示のとおり右のうち一二〇万円は填補済みである。
二 原告会社の損害について
原告会社は、本件事故により被害車両の廃車を余儀なくされたとして、登録関係手続費等合計金二五万八九三〇円の損害を受けたと主張し、なるほど、甲一三の1、2によれば、被害車両を一万四〇〇〇円で下取りに出した上で、被害車両と同種の新車を購入し、このための登録関係手続費等として原告会社主張の内訳で合計金二五万八九三〇円を支出していることが認められる。
しかしながら、乙一の1ないし3、二の2、4、5によれば、本件事故の後、原告会社代表者は、被害車両の修理を前提に被告会社の担当者と交渉していたこと、当時の被害車両の中古価格は七四万五〇〇〇円であるのに比し、本件事故による被害車両の損傷は、車両後部に限定され、部品代一二万五四五〇円、工賃二一万三七〇〇円、消費税込みの修理代金総額は三四万九三二五円程度と見積もられたことが認められるのであつて、修理が可能であり、買換えが必要であつたかどうか疑わしく、右請求にかかる登録関係手続費用の支出が本件事故と相当因果関係のある損害であるとは直ちに認めがたいといわなければならない。
仮に、買換えが必要であつたとしても、甲三七の1、2、乙二の2、4、5、六ないし九によれば、前示のとおり、原告会社代表者は、被害車両の修理を前提に被告会社の担当者と交渉し、車両被害については、修理代と評価損についての補償を求めていたところ、平成元年七月に至り、原告会社と被告会社とは、修理代と評価損の合計を四四万〇三二五円とし、被告会社から原告会社に対し同金額を支払うこと、及び被告会社が代車料一九万四三六一円を負担することをもつて、車両損害についての損害賠償とすることと合意し、同月二五日に、原告会社は被告会社から右四四万〇三二五円を受領したことが認められる。これによれば、原告会社と被告会社との間で被害車両に関する損害賠償額は合意され、被告会社は右賠償金の支払いは既に履行済みであるということができ、原告会社の本訴請求は失当である。乙七(原告会社の右賠償金についての領収証)には、「損害賠償については別途請求する」旨のただし書が付されているが、乙二の2、4、5によれば、原告会社は、本件事故に関し、被告会社に対し、右車両被害についての損害賠償のみならず、原告会社の業務停止による損害賠償も請求していたことが認められ、右ただし書にいう損害賠償とはこのことを指しているものと推認されるのであつて(ちなみに、原告会社は、本件訴訟の当初においては、原告住田が原告会社所有の自動車を用いて通院したことを原因とする損害賠償を請求していた。)、右認定の妨げとはならない。
三 弁護士費用
本件の事案の内容、審理経過及び認容額等の諸事情に鑑みて、原告住田の本件訴訟追行に要した弁護士費用は、金二五万円をもつて相当と認める。
第四結論
以上の次第であるから、原告住田の本訴請求は、被告に対し、金二三四万八〇八〇円及びうち金二〇九万八〇八〇円に対する平成元年六月一〇日から、うち金二〇万円に対する平成四年五月一二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による各遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、同原告のその余の請求及び原告会社の本訴請求は理由がないから棄却すべきである。
(裁判官 南敏文)